八王子城跡ハイキング。自分の居場所が分からない!

DATA

2021年5月16日(日)
くもり時々雨
気温21.0度・湿度69%(道中)
YAMAPの活動データ

遅く起きた、雨降りの日曜日

5月、雨降りの週末。遅く起きたわたしは、八王子城へ行ってみようと思い立った。
その数日前に衝動買いした『高尾山ハイキング案内』という本に触発されたのだ。

八王子城跡あたりは登山客というよりも、史跡愛好家が多く立ち寄る場所のようだ。雨が降ってきても、大きなリスクはないだろう。
わたしは、リュックに1食分の自炊セットを詰め込み、ハードシェルをはおって高尾駅へ向かった。

高尾駅から八王子城跡へ

高尾山駅から八王子城跡までは、週末のみ、1時間に1本ほどバスが出ている。わたしは乗り継ぎが悪かったので、別のバスで「霊園前・八王子城跡入口」バス停まで行き、そこから15分ほど歩くことに。

途中、森の奥へ続く細道のようなカフェが2軒。
軒先にミントが茂っていたり、木のベンチがあったりして心惹かれたが、ぐっとこらえて先を急ぐ。

八王子城址にはガイダンス施設があり、ハイキングの前に歴史などの予備知識を得ることができるらしい。けれどこの日は、コロナ禍による緊急事態宣言を受けて休業しているようだった。

わたしは、なんとなく、人気の多い方へ、道が整備されている方へと、足を運んだ。
車道から離れ、林道へ入る。すると、城跡らしい風情を感じることができる広く開けた場所が現れた。
案内板も要所要所に掲げられ、歴史を学びながら散策することができる。

わたしの持っていた『山と高原地図』には細かい散策道までは描かれていなかったけれど、城跡の先の山道を行けば「富士見台」という場所に出られることは分かった。

わたしは、史跡の奥から伸びている砂利道へ入っていった。

豊かな色と音、そして虫たちの世界

濡れた緑は鮮やかで豊かで、鳥の声もさまざまに、森のなかに響いている。

歩けば歩くほど、道は細く、茂みは深くなっていく。
史跡から離れてからというもの、人にまったく出会わなくなってしまった。
車道から遠いのか、車の音もない。
毛虫や蝶はたくさんいて、まだ見たことはないがヒルもいそうだ。

あっという間に、人間のほうが「よそ者」になってしまったようだ。

道はすっかりけもの道になってしまった。濡れた葉に触れずに道を抜けることができないような場所も少なくない。ロープを握らないと登れないような急坂も現れた。

この急坂のあたりで、1人だけ、人とすれ違ったけれど、これが、山道で出会った最初で最後の人になった。

1時間近く歩いてきて、不安がだんだん本格的になってきた。
地図通りの道を歩いているなら、さらにいくつかの史跡を経由するはずだ。でもいまのところ、そんなものには出くわしていない。
地図のコースタイムでは、城跡から富士見台まで1時間程度。本当に、そんな見晴らしのいい場所に出られるのだろうか。

お腹も空き、ずいぶん心細くなってきたところで、初めて標識が現れた。
右に「富士見台」と示されている。よかった。

この標識があるのは、道の分岐。でもその場所は、自分の来た道の続きというよりは、自分の通ってきたところが脇道で、広く整備された山道にたまたま運よく出ることができた、といった雰囲気だった。
わたしはこのとき、自分がメインの山道を歩いているつもりだった。やっぱりなにかおかしい。地図を見ても、歩いているはずの道には、こんな分岐はない。

わたしはいま、どこを歩いているのだろう。

まぼろしの「富士見台」

気づくと、道はジメジメした谷間の道から、尾根道になっていた。
鳥の声はすっかりしなくなっていて、まわりは整備された杉林になっていた。

杉林をしばらく歩くと、山頂らしき場所に出た。GPSのマップを見ると、等高線がいくつもの円を描いていて、いまいるのがその真ん中。山頂の証拠だ。
ところが四方は杉に囲まれて、「富士見台」らしいものはどこにもない。

前日に読んだだれかのブログには、富士見台には屋根付きのベンチがあると書いてあった。わたしは、そこでインスタントラーメンを食べようと思っていた。

でも、ベンチも屋根も、見晴らしもない。

標識には確かに富士見台と書いてあったのだから、このまま道を進めば、富士見台があるのかもしれない。
そう思ってちょっと先へ進んでみたが、道は山頂をぐるっと回って、来た道に戻ってしまった。

自分の居場所が分からない。
しかたがない、来た道を戻ろう。

巨大なハチに追われる

持っている地図に、現在位置を示せない。そんな状況ははじめてだった。
不安がおのずと先を急がせる。

ロープのある急坂を下りたあたりだっただろうか。
見たこともないような、大きなハチが現れた。大きな体を重そうにぶら下げて、ブンブン羽音を鳴らしながら、こちらに近づいてくる。

わたしの歩くスピードより、早い。

あんな大きなハチに襲われたら!
助けてくれる人はだれもいない!

わたしは、できるだけハチを刺激しないように静かに、けれど駆け足で、山道を駆け下りた。
濡れた葉っぱが体に当たる。毛虫がいるかもしれない。ヒルがくっついているかもしれない。
でも、巨大なハチのほうが圧倒的に怖い。

しばらくハチの羽音が追いかけてくるような気がしたけれど、その羽音が本当に聞こえていたのか、耳について離れなかっただけか、判然としない。とにかく、数十メートルも走ると、ハチは見えなくなっていた。

その先に、川の流れのあとのようなガレ場があった。
見晴らしはまったくないけれど、とにかくハチや毛虫はいなさそうだったので、そこで昼食を取ることにした。

レモンスカッシュの爽やかさが気恥ずかしかった。
朝、見晴らしのいい「富士見台」をイメージしながら、バックパックに詰めたものだった。

地の下の異世界を思う

空腹を満たしてホッとすると、わたしはスマホに話しかけてみた。
「ヘイSiri。わたしって今どこにいるの?」
すると、わたしはいま国道にいるとのこと。

耳を済ませてみたが、車の音はしない。でも、GPSのマップを見ると、たしかに大きな道路と重なる位置にいるようだ。
もしかしたらわたしの足の下に、トンネルがあるのかもしれない。
大きな道路があって、人の乗った車が、ビュンビュン走っているのかもしれない。
ハチや毛虫やヒルや、山の遭難とは無縁の、コンクリートとガソリンの世界が──。

でも、いまのわたしの現実は、1人ぼっちで森のなか。
もしハチに刺されても、助けてくれる人はいない。
自分の足で、人の世界に帰らなければいけない。

高尾山の人混み、高尾山の団子、高尾山の乾いた山道が、恋しいと思った。
いつもは、人混みをどう避けるかばかり考えていた。
こんな気持ちになったのははじめてだ。

私は、インスタントラーメンでにわかに元気付いた足でスタスタ歩いた。
帰り道は早かった。もうすでに見知った道だ。急坂も越えた。気持ちに余裕が帰ってきた。

しばらく行くと、道が広くなり、人の声が聞こえてきた。
登山リュックさえ背負っていない、普段着の親子連れだ。
よかった、人里に返ってきた!

あとで分かった、衝撃の事実あれこれ

史跡をあとにして、バス停へと歩きはじめたとき、こんな鳥居を発見した。

ん、本丸方面?
そうか、城跡に来たのに、本丸を見逃していたのか……。
次に来るときは、ぜひこの階段を登ってみよう。

翌日。

自分が歩いた道がなんだったのかを確認しようと、改めて『高尾山ハイキング案内』を開いた。
すると、もともと行くつもりだった登山道は、帰りに見た「本丸」から伸びていたようだ。
わたしが見た史跡はハイキングコースの「寄り道」の部分。
わたしはその寄り道から、まったく違う登山道へと入っていってしまったのだ。

目的の「富士見台」は、わたしが「山頂」だと思った場所のすこし先にあったようだ。
不安に襲われていたわたしにはその道を見つけることができなかったが、きっと、さらに伸びる道があったのだろう。
富士見台まで行けていれば、そのまま本丸の方へ帰ってこられたかもしれない。

さらに、あの大きなハチについても調べてみた。
じつは高尾山あたりには、オオスズメバチという世にも恐ろしいハチが生息しているらしい。
彼らに目をつけられたら何度も刺してくるそうだ。刺されたら、死に至ることもある。目をつけられないためには、すみやかに、彼らの巣から100メートル以上離れること。敵でないと安心すれば、それ以上は追ってこないらしい。
オオスズメバチは秋口まで多く、そのせいで高尾山の登山道が封鎖されることもあるそうだ。

お気楽ハイキングのつもりだったのに、なんだか大冒険になってしまった。
この大冒険から得た教訓は、以下。

  • どんな手軽な山でも迷子になる!
  • 高尾山にはオオスズメバチがいる!
  • 人気の少ない山の1人登山はキケンがいっぱい!
  • GPS地図は、山道の表示があるものを!(YAMAPの有料版に入りました)

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